京都大学FutureEarth研究推進ユニット

Future Earth Research promotion unit, Kyoto University

Future Earthが進める「KAN」(春日 文子さんの講演)
2017年3月17日 掲載

文:小野寺佑紀(レカポラ編集舎

Future Earthが活動していくにあたり、5つの国際事務局がもうけられています。その1つが日本事務局です。ほかの事務局は、アメリカ、カナダ、スウェーデン、フランスにあります。

午前中のシンポジウムで最初に講演されたのは、日本事務局の局長を務める春日文子さんでした。春日さんは、局長になる前は厚生労働省で食品の安全に関する研究に携わっていたそうです。会場で、日本はもちろんさまざまな国からやってきた関係者の皆さんと快活にお話しされている姿が印象的でした。

春日さんの講演のタイトルは、「Future Earth—その活動と展望」です。Future Earth発足までの歩みや基本的な理念、現在進めている活動などがその内容でした。

地球の限界を示す円グラフ

図:Planetary Boundaries

発表の冒頭では、Planetary Boundariesと呼ばれる円グラフのようなものが登場。Future Earthの理念を語るときにはよく使われる図のようです。

地球の環境は、その長い長い歴史の間、大きく変動してきました。地球全体が氷でおおわれていた時代だってあったのです。ただし、この1万年ほどは、地球の環境はおだやかに安定していました。だからこそ私たち人類は地球上に広く暮らし、その恩恵にあずかって繁栄してきたのです。

ところが、その安定していた環境が人間の活動のせいで「後戻りできないくらい」のダメージを受けていることがわかってきました。そのダメージの程度を示したのがこの円グラフなのです。

赤いところは「地球の限界を超えた危険な状態」をあらわしています。該当するのは、生物多様性と、リンおよび窒素の循環・・・・・・。「限界を超えつつある」ものもあります(黄色の部分)。気候変動と、Land system changeです。

限界を超えると、いったいどうなってしまうのでしょうか? Future Earthのパンフレットには、「人類文明の存続、持続性にとって大きな脅威となる可能性を秘めて」いると書かれてあります。今の文明が終焉を迎えるかも、ということなのでしょうか。たとえば、マチュ・ピチュ遺跡を残して途絶えてしまったインカ文明のように?

さすがに文明の終焉は最悪の事態かもしれませんが、いずれにせよ私たちの生活が今までどおりにいかなくなるかもしれない、もうすでに変わってしまったところもある。科学者の皆さんはそのように警告しているのでしょう。

新しいつながりの場

Future Earthは、いろいろな活動をはじめているようです。そのひとつとして、ホームページやメールマガジンで情報を発信したり、『Anthropocene Magazine』というウェブマガジンを発行したりしています。ウェブマガジンは、ウェブサイトで見る限り無料だそうですよ。ただし英語です。

それから、いろいろな立場の人が情報を共有し、意見を交換しあえる場として、新しいネットワークを立ち上げています。その名もKnowledge Action Network、略してKANです。日本語だと「知と実践のネットワーク」というようです。KANは「環」と同じ音なので、ネットワーク・つながりという意味で日本人には親しみやすそうだな、と思ったりしました。

2016年には、先発として、9つのKANが立ち上げられました。

  • Water-Energy-Food Nexus(水・エネルギー・食べ物)
  • Oceans(海洋)
  • Transformations(社会システムやライフスタイルの変革)
  • Natural Assets(自然資産)
  • Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)
  • Urban(都市)
  • Health(健康)
  • Finance & Economics(金融と経済)
  • Systems of Sustainable Consumption and Production(持続的な消費と生産システム)

たとえば、Health(健康)のKANでは、どのような課題があって、優先されるべき課題はなにかを検討したり、みんなで使えるデータや文献のリストづくりが進められているそうです。

ウェブ上で登録すれば、どのKANにも、だれでも参加することができます。かけもちもOK。分野ごとに課題を考えるだけでは従来のやり方と同じなので、Future EarthとしてはKANどうしの連携も重要視しているとのことです。

私が興味深いと感じたのは、KANに参加することで、研究者に調査の依頼もできるという点です。研究や調査というのは、研究者側からスタートするのがこれまで一般的だったのではないでしょうか。そうではなく、社会にいる人々、つまり私たち自身でも問題解決のために研究や調査を始めることができるしくみなのです。

Future EarthもKANも、まだ生まれたばかり。これからみんなでアイディアを出し合って発展させていきたいーーと春日さんはおっしゃっていました。KANを利用すればどんなことができるのか、興味をもった人はまずウェブサイトをのぞいてみてはいかがでしょうか。


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