京都大学FutureEarth研究推進ユニット

Future Earth Research promotion unit, Kyoto University

ハートウェアで流域管理(ジーダ・ファティマ・モハマドさんの講演)
2017年3月21日 掲載

文:小野寺佑紀(レカポラ編集舎

ジーダ・ファティマ・モハマドさんは、マレーシアのマラヤ大学の研究者です。流域管理に関する研究をつづけていて、Future Earthにも初期から関わってこられたそうです。

ハートウェアって?

ジーダさんのフィールドは、マレーシアのセランゴール川です。そこで、「ハートウェア・リサーチ・プログラム」という活動をされてきました。この川がこれからもずっと生き物が暮らし、人々に利用される健全な川であるために、今ある問題を解決しようというのがその目的です。

ハートウェアって、聞いたことがありますか? 私は初耳でした。これは、「ハードウェア(装置などの物体)」でも「ソフトウェア(データなど)」でもない、心や文化、記憶のことだそうです。もともとは琵琶湖の流域管理を進めるうえで出てきた考え方で、琵琶湖ではハートウェアを生かして行政が行われているそうです。

ジーダさんはこのハートウェアというアイデアがマレーシアでも生かせるのではないかと考えて、プログラムを立ち上げたのです。

人々の価値観を知る

セランゴール川は、蛍のみられる川として有名です。ジーダさん率いるプログラムチームは、この川の流域に暮らす人々の「価値観」に注目することにしました。具体的には、「水資源としての川」「川の生態系」「川の地形」「川と生活」「川と産業」そして「川と精神世界」の6つの価値観を人々に尋ねてまわったのです。

その結果、いろいろなことがわかりました。たとえば生態系に関しては、蛍やマングローブは重要だと多くの人が考えている一方で、そのほかの動物や植物の重要性、昔ながらの生き物の利用方法については昔に比べて意識が低くなっていました。また、現在は生活に水道水を使うため、川を水資源ととらえている人はいなくなっていることもわかりました。とくに若い人を中心に、“川離れ”が進んでいることが浮き彫りになったのです。

こうした点をふまえて、ジーダさんのプログラムでは、若い人たちに川のことを伝える会を開いたり、冊子をつくったりしました。川がもつ宗教的な役割の理解を深めるための集会も開いているそうです。こうしたことがどのように流域管理や問題の解決につながるのかはまだ先の話のようでしたが、地元の人を巻きこんで流域管理を進めることの第一歩なのかなという印象をもちました。

息を吹き返した湖

大学から遠く離れたセランゴール川で研究を進めていたとき、ジーダさんたちはあることに気づいたそうです。それは、大学のキャンパス内にあるヴァーシティ湖が悲惨な状況になっている!ということでした。汚れてしまって、だれも利用できない状態だったのです。

そこでジーダさんたちはこの湖を復活させることを決意し、ハードウェアとソフトウェア、そしてハートウェアを組み合わせて活動を行いました。その結果、2年後には湖はきれいになり、泳いだりボートを漕いだりすることができるようになりました。野鳥も戻ってきたそうです。

こうした経験を経て、ジーダさんはマレーシアでもハートウェアを流域管理に生かせるという手応えを得たようです。さまざまな人の価値観のちがいを理解し、継続して活動することで、らせんを描くように徐々に目指すところへたどり着く。ハートウェアを生かした流域管理はそうして進めていくべきだ、とジーダさんはおっしゃっていました。


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