京都大学FutureEarth研究推進ユニット

Future Earth Research promotion unit, Kyoto University

持続的な文化から学ぼう(カール・B・ベッカーさんの講演)
2017年3月21日 掲載

文:小野寺佑紀(レカポラ編集舎

「持続可能な社会」についておこなわれた午前中の基調講演。二人目の講演者は、京都大学こころの未来研究センターのカール・B・ベッカーさんでした。

ベッカーさんは哲学の専門家で、とくに日本の死生観について長年研究してこられました。哲学というのも私たち人類の未来、つまりFuture Earthにとって重要な部分ですが、まだ取り入れられていないのが実情のようです。

世界でも希有な国、日本

講演の冒頭では、日本とハワイ、そして地球の画像を映し出されました。私たち日本人の故郷、ベッカーさんの故郷であるハワイ、そして人類の故郷・地球です。日本とハワイは島国であるという共通点があります。他国と切り離されたこれらの国がどのようにして持続的な暮らしをしてきたか、そこから学ぶべきことは多いとベッカーさんは言います。

ベッカーさんによれば、日本は世界で初めて、閉じた世界でありながら長く持続的な社会を築いた国なのだそうです。

世界で人口100万人に達する都市を築いたのは、古い方から順に、ローマ、ロンドン、そしてパリです。これらの都市は軍事力と植民地によって都市を支えました。一方、日本では江戸時代には京都、堺、江戸、長州という4つの100万人都市があり、300年つづきました。軍事力も植民地もないのにです。これは世界ではまれな例だそうです。どのようにして、そんな社会が実現されていたのでしょうか? ベッカーさんは、「環境」と「心(価値観)」に注目して、それを分析されていました。

身のまわりのものを食べ、ものを使いまわす暮らし

環境の話の中でもベッカーさんが時間を割いていたのは、食べ物に関することでした。私たち日本人は、田んぼをつくってコメを食べ、田んぼのまわりにはダイズを植えてタンパク質源としてきました。田んぼに暮らす魚も食べたし、海の生き物も食べてきました。ベッカーさんも自分で米づくりをされているそうです。

こうして四季に応じて、身のまわりの食べ物を食べていればよかったのですが、現在は遠方や外国から食べ物を輸入するために、“得体の知れない”食べ物が増えました。運搬するだけでもエネルギーをたくさん使うため、環境破壊や地球温暖化につながります。また、“得体の知れない”食べ物を食べることで健康に悪影響が出る恐れもあります。これらはいずれも「持続的」とはいいがたいことです。

日本人はいろいろなものを使い捨てずに使いまわすくふうをこらしてきた、という紹介もありました。たとえば着物は、つくりかえながら使いつづけることで人間よりも長生きすることがあります。金属や紙、水も大切に使い、使いまわします。昔は人糞だって使いまわされて畑の肥料になったのです。

ベッカーさんはこう言います。私たちが使ったもの、捨てたものは、いずれまわりまわって私たちの子孫が口にすることになります。Future Earthではさまざまな立場の人が参加することを大切にしていますが、その中には「将来の子どもたち」も含まれてしかるべきだとおっしゃっていました。

心、価値観においても日本人は独特です。書道や茶道、座禅、読経などは、量や速度を競うものではなく、心をおだやかにし、人間の価値を高めるものだとベッカーさんは言います。お金をもうけることだけを重要視するのではなく、先祖から受け継がれてきたものを大切にすること、何百年後の子孫のことを思って今の営みを続けること、そうしたことが持続性につながっているというのです。

こうした知識や価値観は、なにも日本だけにあるわけではありません。伝統的な文化の多くにはさまざまな形でみられるものです。完璧な文化というものはありません。だけど持続的な文化はあちこちに存在している。それらから私たちは学びましょう、というのがベッカーさんからのメッセージでした。


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