京都大学FutureEarth研究推進ユニット

Future Earth Research promotion unit, Kyoto University

持続性のカギはボトムアップにあり(サンダー・バンデルリューさんの講演)
2017年3月21日 掲載

文:小野寺佑紀(レカポラ編集舎

Future Earthが目指しているのは「持続可能な地球社会」です。地球の環境や資源とうまく付き合って、破綻することなく生きていこうということ。午前中に行われた2つの基調講演は、この「持続可能な社会」に関するものでした。

一人目の講演者は、アリゾナ州立大学のサンダー・バンデルリューさん。今は、総合地球環境学研究所に招聘外国人研究員として滞在もしておられて、Future Earthには初期から関わっているそうです。

サンダーさんは、「環境問題とは社会問題である」とおっしゃいます。環境問題とは何か、社会問題とは何か、そしてそれぞれどう関わっているのかをさぐっていくことで解決策を見いだせるのではというお話しでした。

破綻しかけた村落の暮らし

サンダーさんは1990年代からギリシャのエピロスという山岳地域で、環境と人々の暮らしの変化について研究をおこなってきました。

この地域にある村落では、何世紀もの間、人々が環境とうまくつきあって暮らしてきたそうです。都市から孤立していて、村落の人たちはみんな顔見知り。ヒツジやヤギの牧畜と耕作で、自給自足の暮らしをしていました。

ところが1940年代から大きな変化が波のように襲ってきます。いくつかの戦争があり、軍の支配が強まりました。新しく国境がつくられたことで、道路ができ、その道路によって村の若者が村落から出ていってしまうという事態もおきました。過疎化がどんどん進んだのです。

村落の結束力は弱くなり、政府による上からの支配が強くなりました。それまでは自分たちのことは自分たちで決めていたのに、それがなにも決められなくなりました。村落の中でも人間関係に分裂がおきるようになりました。

人々の考え方や生活スタイルも大きく変わりました。以前のようにヒツジやヤギの牧畜ができなくなり、土地の使い方も変わっていきました。お金が重要性を増し、みんなが都市の暮らしにあこがれるようにもなりました。長い間ずっと村落でつづけられてきた持続的な暮らしが、立ちゆかなくなってしまったのです。

ボトムアップで運命をコントロール

村落に残っていた人々は、この先どうしたら以前のように安定して暮らしていけるのか、不安に思っていることでしょう。そして、じつは都市に出ていった人々も、将来のことを不安に思っているとのことでした。都市での暮らしはストレスが多く、持続的とは言えません。村落に戻りたいと思う人も増えているそうです。これは、世界的に見られる傾向とのこと。

では、政治や経済や社会がこれほど変わってしまった今、村落はどうしたら以前のような持続的な暮らしを取り戻すことができるのでしょうか?

サンダーさんは、キーワードは「ボトムアップ」だろうと言います。上から押しつけられるのではなく、自分たちで考えて行動するのです。もっている資源を活用し、持っている知恵を失わないようにする。ボトムアップは、時間がかかるし、困難です。しかし、これが唯一の道ではないか。サンダーさんはそう考えているそうです。

具体的には、たとえば村落の中で信頼のおける2、3人が中心になってアイデアを生みだし、それにみんなが乗っかっていく形がいいのではないかとのこと。インターネットや道路、鉄道、エコツーリズム、そしてドローンなどを活用して、自分たちで自分たちの運命をコントロールしていくのです。

サンダーさんもおっしゃっていましたが、このようなことは世界中でおきていますよね。日本もそうです。地球全体が都市化に突き進むのではなく、都市から離れて暮らす生き方を望む人が増えていることは興味深いと思います。都市のよさ、村落のよさ、それらがうまく作用しあってみんなが持続的に生きていける世界。それが理想なのでしょうか。


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