Future Earth国際シンポジウム ディスカッション
2017年3月21日 掲載
文:小野寺佑紀(レカポラ編集舎)
シンポジウムの最後には、来場者に発言してもらうディスカッションの時間がもうけられました。
今回は、「京都大学にはこんな人材がいますよ」ということをアピールする最初の機会だったので、いろいろな分野の専門家がそれぞれの研究内容について講演をされました。地元に密着するローカルな研究が京都大学の強みです。
ただし、それらの研究と、Future Earthやグローバルな課題とはどのように関連するのか? という点については、まだ語るべき段階にないようでした。そこでこのディスカッションでは、ローカルとグローバル、そしてFuture Earthとの関係について議論できないか、という提案がなされました。
ここでは、各発言の主要な点だけ紹介したいと思います。
自然科学と社会科学では見え方がちがう
ジャン=マリー・フロー(Jean-Marie Flaud)さんは、Future Earth国際事務局パリ・ハブの資金提供機関代表を務めている方です。マリー・フローさんは物理学者で、専門は量子力学だそうです。これを聞くだけでも、いかにFuture Earthにさまざまな背景をもつ科学者が参加しているかがわかりますね。
マリー・フローさんは、自然科学と社会科学が関連していくことはとても難しいことだとおっしゃっていました。1つの問題をいっしょに解決しようとしても、自然科学の側から見た問題の見え方と、社会科学の側から見た見え方では異なるのです。また、“使っている言語”もちがうため、意思疎通がうまくいかないことも多いようです。
こうしたハードルを乗り越えてどのようにして解決策を見いだすか、それが問われているのでしょう。
サクランボとケーキのように
Future Earthでは、さまざまな立場の人がいっしょになって問題解決をはかる、ということを重要視しています。学問の世界では、異なる分野の人がいっしょになってなにかすることを「学際」とよびます。これは、異なる国どうしの関係を「国際」というのと同じことです。
また、この学際という領域をさらに広げて、政治や産業、一般の人々などを含めていっしょになにかをすることを「超学際」といいます。Future Earthでは、この「学際」や「超学際」というのが大事なキーワードになっています。
ステファーヌ・ブラン(Stephane Blanc)さんは、 Future Earth国際事務局パリ・ハブの資金提供機関メンバー(かつ国際事務局準備チーム・メンバー)をされている方です。ブランさんいわく、パリでも学際や超学際についていろいろな議論が進められている最中だそうです。非常に複雑な問題になるので、簡単に「こうすればよい」という結論には至らないのです。なんとかして無理矢理にでも協力して、問題を解決しなくては、というのが現状なのだとか。
自然科学者と社会科学者が協力しあうことは、超学際の第一歩ともいえます。ただし、今は、お互いに批判しあっている部分の方が多いようです。どうにかして1つの解決策をみつけていかねばならない、とおっしゃっていました。ブランさんはこう言います。「サクランボとケーキはばらばらではおいしくない。いっしょになってこそ、楽しめるのです」。
トランスフォーメーションを正しい方向へ
Future Earthは、日本やパリを含む5つの事務局のほかに、地域センターももうけています。地域センターは、アジア、中近東・北アフリカ、アフリカ、ヨーロッパ、そしてアメリカに置かれています。このうちアジアセンターは、京都の北にある、総合地球環境学研究所に設置されています。
ハイン・マレーさんは、Future Earthアジアセンターの事務局長です。
マレーさんは、「トランスフォーメーション」について語られました。トランスフォーメーションとは、ある1つの状態から別の状態へと移行することをいいます。はやりの言葉だそうで、「危機を逃れるためにはトランスフォーメーションが必要だ」というような使われ方をします。
トランスフォーメーションは、これまでも常におきてきたことです。たとえば、江戸時代から明治時代への移り変わりのように。また、小さな規模であれば現代でもあちらこちらでおきています。そして、危機から逃れるためには、トランスフォーメーションがおきるのを待っているのではなく、自分たちで引き起こすことが大事なのだそうです。
Future Earthの使命は、トランスフォーメーションを引き起こすことではなく、今おきているトランスフォーメーションを正しい方向へ導くことだ、とマレーさんは言います。
では、正しい方向とは何なのか?
その答えがポンと出るなら苦労はありませんよね。それを模索することもFuture Earthの役割なのでしょう。歴史に学ぶ、というのもひとつの手だという意見も出ていました。
たとえば、このシンポジウムではいろいろなキーワードが登場しました。「ボトムアップ」や「ハートウェア」、「地方の人々の価値観」、「複数のレベル」、「マイクロスケール」などです。これらをどのようにスケールアップして、地球レベルに近づけられるか、それを考えていくことが必要なのだとマレーさんはおっしゃっていました。
将来の姿が現在をつくっている
ローハン・デスーザさんは、京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科で准教授をされている歴史学者で、近代の科学技術についての歴史や哲学、環境問題の変遷について研究されています。京大のFuture Earth研究推進ユニットの設立メンバーです。
ローハンさんは、当初Future Earthがなぜ必要であり、どのように進めていくべきかよくわからなかったが、関わっているうちに徐々にわかるようになってきたとおっしゃっていました。
Future Earthで重要視されているのは、自然科学と社会科学の協力です。これまで自然科学と社会科学には共通して取り組む課題がありませんでしたが、気候変動や温暖化といった問題があらわになるにつれて、同じテーブルにつかざるを得ない状況になってきました。
また、従来は、「将来のことを考えるためには、過去から学ぶ」というのが一般的な姿勢でしたが、それが「将来の姿が現在をつくっている」というような考え方に変わってきた、ともローハンさんは言います。今私たちは何をするべきか、どんな政策を打ち立てるべきか、それを考えるためには未来のことを見なければならないのです。
若い研究者のロードマップとは?
京都大学地球環境学堂の堤田成政さんは、人工衛星画像を使って、土地がどのような使われ方をしているのかを研究されています。ローカルなレベルから全球レベルまで広いスケールの画像を扱っていて、将来的にはFuture Earthに関わるさまざまな立場の人にそうした画像を提供することもできるだろうとおっしゃっていました。
ご自身も若手の研究者である堤田さんからは、若手の研究者がFuture Earthに関わる場合、どのような方向性をめざすべきなのか?という質問が出されました。
これに対して、会場から発言がありました。若い人たちは、理論にもとづく研究と地元に密着して行うフィールドワークを組み合わせて進めるべきだ、というものでした。自分が関心をもてるところから始めてよいが、他分野の人たちとも議論をし、また共に研究をして成果を出していくことも大切だそうです。
ローカルとグローバルを行ったり来たり
ディスカッションの最後にコメントをされたのは、総合地球環境学研究所の所長で、Future Earth科学委員会の委員も務める、安成哲三さんでした。あちこちで何度もFuture Earthについてお話しをされているというだけあって、簡潔でわかりやすい内容だと感じました。
Future Earthを進めていくにあたって重要なことは、ローカルとグローバルのことを常に考えていくことだろうと安成さんはおっしゃいます。ローカルだけでも、グローバルだけでもなく、たがいを「行ったり来たり」することが大事だというのです。
京都大学ではすでにさまざまなローカルな研究が行われてきました。これからはグローバルな研究をしている人たちと対話し、また、ほかの地域でローカルな研究をしている人たちと対話をしていくことが必要ではないか。安成さんはそう提案されていました。
この日の講演とディスカッションを聞いて、Future Earthはまだまだ模索中なのだなという率直な感想をもちました。いろいろな立場の人が関わって、問題解決をはかることはそんなに簡単なことではないですよね。ただ、こうして京都大学で新しいユニットが立ち上げられたり、Future EarthではKANというネットワークが構築されたりすることによって、じわじわと前進しているのはたしかなのでしょう。Future Earthや地球の環境問題、地元の環境問題に関心をお持ちの皆さんは、どのように感じられたでしょうか?
Future Earthはとりあえず2015年から10年間の予定で活動を行うそうです。これからの動向を期待したいですね。いや、期待するだけではなく、関心のある方はぜひ積極的に関わっていきましょう。それこそがFuture Earthの目指すところです。